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明治大学 理工学部 建築学科 教授 園田 眞理子 氏明治大学 理工学部 建築学科 教授 園田 眞理子 氏

レッツプラザ2017年6月号

人生100年時代。高齢期を安心して暮らすためには?
地域コミュニティの活性化と資産のフロー化という発想から超高齢社会の解を探る――。

拡大する平均寿命と健康寿命の差。120兆円に迫る社会保障給付費。そして、団塊の世代が75歳を迎える「2025年問題」。日本に押し寄せる超高齢化の波は今、社会のあり方や一人ひとりの意識に大きな転換を迫っています。

増大する高齢者を今後どうやって支えていくのか――山積する種々の問題に、今ひと筋の光を投げかけているのが、新しい発想や仕組みに基づいた様々な課題解決の試みです。今回は、長年にわたり高齢期における住宅・住環境の研究に携わってきた明治大学の園田眞理子教授に、高齢者の住まいや暮らしを取り巻く諸課題や新たな社会の動きなどについてお話を伺いました。

想定外の事態に見舞われた
日本社会の戸惑いと不安

戦後から現代までの日本の住宅事情を大まかに概観すると、それまで不足していた住宅の供給数が需要に追いつき、「量」の問題を克服した高度経済成長期を経て、1970年代半ばから2000年ごろにかけては住まいの広さや機能性、意匠性といった「質」が求められるようになりました。これが20世紀、いわば発展途上の延長にあった時代だったと思います。

そして21世紀に入ると、住まいを単に箱と捉えずに「住環境の中に住宅がある」と考える21世紀型の成熟社会が到来します。住まいを含む住環境全体のクオリティが暮らし、特に人生の後半の生活の質を大きく左右する時代になったのです。

現在の高齢者の暮らしを取り巻く問題の核心は、戦後70年ほどの間に平均寿命が30年延びたという想定しえなかった事態が起きている点にあります。事実、現在60歳の女性の半数以上が90歳を超えて100歳近くまで生きるとも言われています。いまや全人類的な課題として、これからは社会や生活のあらゆるシステムを100年間の人生を前提に設計・更新していかなければならないのです。

一方で、人口・世帯数の減少という、これもまた近代以降の日本社会が経験したことのなかった事態が地方だけでなく大都市圏でも水面下で進行しつつあります。そうなると例えば、「最期をどう看取り、看取られるのか」といったことについてもお手本がないことに対する大きな不安感がある。こうした状況はかつて誰も想定していなかったので、個人にせよ社会にせよ、どこかチグハグで対応しきれていない、というのが現状なのです。

地域コミュニティのあり方が
高齢期の暮らしを左右する

近年、高齢者の暮らしを取り巻く問題として、最後の介護の受け皿の不足が取り沙汰されています。しかし実際、介護や医療の水準は住んでいる地域によってものすごく大きな差があるのです。それは県や市といったレベルではなくて、もっと身近な住環境、想像以上に小さな圏域ごとに違いが生じている。つまり地域コミュニティのあり方次第で、高齢期の暮らしに天と地ほどの開きが出る時代がやってきているのです。

あまり意識されることはないかもしれませんが、住環境、特に優良な郊外住宅地などには、時間をかけたからこそ得られる3つの価値があります。まずは「緑価値」です。造成時などに植えられた緑は最初のうちはまだ幼く弱々しいものですが、木々や草花は手入れされながら時間をかけて立派に育っていきます。次に「コミュニティ価値」です。住み始めた当初は近所にどんな人が住んでいるか分からなくて不安を覚えたりしますが、長い年月を通じて近隣の人々と少しずつ親交を育んでいく中で安心感も生まれます。そして最後が「学校価値」です。郊外住宅地の立派なところほど教育熱心だった人たちが多く、公立の小中学校でも進学率が非常に高かったりします。半世紀あまりの時間をかけて育まれてきたこうした価値をきちんとアピールできれば、若い人が移り住んで、その地域のコミュニティに活力をもたらしてくれる可能性は少なくないはずです。

そして最後が「学校価値」です。郊外住宅地の立派なところほど教育熱心だった人たちが多く、公立の小中学校でも進学率が非常に高かったりします。半世紀あまりの時間をかけて育まれてきたこうした価値をきちんとアピールできれば、若い人が移り住んで、その地域のコミュニティに活力をもたらしてくれる可能性は少なくないはずです。

こうした地域コミュニティの力はまた、超高齢社会の課題に対する大きな切り札にもなります。その試みの1つが、中学校区程度の生活圏域単位で、概ね30分以内に住まい・医療・介護・予防・生活支援など必要なサービスを一体的に提供していく「地域包括ケアシステム」という仕組みです。

先ほども触れたように、平均寿命の伸びは日本社会に大きなインパクトを与えていますが、2000年代に入ってからは少子化が顕著に進み、家族のサイズも加速度的に小さくなりました。こうなると個人や家族、親族といった小さな単位で問題を解決しようとしても難しい。高齢者の暮らしはもう身内だけでは支えきれなくなったのです。そこで地域包括ケアシステムでは、高齢者の暮らしを取り巻く諸課題を、暮らしに密着した地域コミュニティの中で、その地域の特性に合わせてきめ細やかに解決していくことを目指しています。

地域の中には様々な住まいがありますが、このシステムでは自宅なり施設なり住んでいるところがどこであっても、24時間365日安心のサポートがあって、最期まで安心して暮らしていけるような環境を整えていきます。具体的には、市町村が設置した地域包括支援センターが中心となって、地域の医療機関や介護サービス事業者、自治会やボランティアなどと連携しながら、高齢者の総合相談から権利擁護や地域の支援体制づくり、介護予防の必要な援助などを包括的に支援していく仕組みです。

昨今、自宅か施設かといった二者択一に追い込まれて立ちすくんでしまう高齢者も多い中、住まいの形態を選ばない地域包括ケアシステムは選択を迫らない包括的なソリューションであり、全く新しい支援のモデルであるとも言えるでしょう。

今後は、全国の市町村で「地域の課題の把握と社会資源の発掘」→「地域の関係者による対応策の検討」→「対応策の決定・実行」というサイクルを回しながら、3年ごとに介護保険事業計画を策定・実施していきます。そして2025年をめどに、地域の自主性や主体性に基づく、地域の特性に応じた地域包括ケアシステムを構築していく計画です。

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